septembre 18, 2007 (mardi)
「中二階」ニコルソン・ベイカー
[amazon]
1時少し前、黒い表紙のペンギンのペーパーバックと、CVSファーマシーの白い小さな紙袋を手に、会社の入っているビルのロビーに入った「私」。エスカレーターで中二階にあがると、そこにオフィスがあるのです…
岸本佐知子さんの「気になる部分」(感想) を読んだ時から気になってたんですけど、ようやく読めました! 一読して思ったのは、この作品の(というより、ニコルソン・ベイカーの作品の?)翻訳を岸本佐知子さんに依頼した人はエライ!!ということ。ニコルソン・ベイカーの作品はこれが初めてなんですけど、びっくりしました。岸本さんのように一面のお花畑が火の海になってしまうことこそないんですが(笑)、この方の思考回路も相当念が入ってるんでしょうねえ。いや、すごいです。岸本さんは、まさに適材適所ですね。
ある会社員の靴紐がお昼前に切れて、彼は昼休みに新しい靴紐を買ってくるんです。実際にここに書かれているのは、その彼がオフィスビルに入ってきたところから、エスカレーターを降りるところまで。出来事としては、ぜーんぜん何も起きないんです。ひたすら彼がオフィスに向かう途中で頭の中でめぐらしていた考え事を書き綴っていくだけ。エスカレーターの美しさから、回転する物体の縁に当たる光の美しさを思い、自分の左手にある紙袋の中身を思い出そうとしながら、その日の昼食に半パイント入りの牛乳を買った時の店員の女の子とのやりとりを思い出し、「ストローはお使いになります?」と聞かれたことから、かつての紙ストローからプラスチック・ストローへの変換と"浮かぶストロー時代"の幕開け、その後の大手ファーストフードチェーン店のストローに関する対応へと思考は飛び、さらに様々な事柄へ…。両足の靴紐が同時期に切れるのはなぜなのか、自分の人生における8つの大きな進歩について、ミシン目に対する熱烈な賛美。どんなに瑣末な思考も疎かにされることなく滑らかに発展し続けますし、その発展した思考が新たな思考を呼んで、それぞれに詳細な注釈を呼んで、その注釈は本のページから溢れ出しちゃう。ありふれてるはずの日常のほんの数分間が、日常のありふれた瑣末なことに関する思考で、再現なく豊かに膨らんでいくんですよね。いや、もう、こんな作品を読んだのは初めて! いやー、ほんと変な話でした。でも面白かった。(笑)(白水uブックス)
+既読のニコルソン・ベイカー作品の感想+
「中二階」ニコルソン・ベイカー
「ノリーのおわらない物語」ニコルソン・ベイカー
+既読の白水uブックス作品の感想+
このブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
新ブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
Posté par 四季 : lien permanent | 本(2007) /(白水uブックス) | commentaire (2) | trackback (1)
avril 10, 2007 (mardi)
「ジョン王」ウィリアム・シェイクスピア
[amazon]
The Light of the Worldのnyuさんのところで記事を拝見して(コチラ)、「ジョン王という手もあったか!」と手に取った本。
先日の「アイヴァンホー」以来、いくつかロビン・フッド関連作品を読んだんですが、元々ロビン・フッド物ってあんまりないんですよね。…いや、まさかシェイクスピアにロビン・フッドが登場するはずもないというのはよく分かってるんですが。(笑)
ジョン王といえば、マグナカルタ(大憲章)を認めたヒト。フランスにあったイギリスの領土を失ったことから欠地王とも呼ばれ、イギリスでは最低最悪の君主とされてるヒト。ロビン・フッド物でも徹底して悪役にされてます。でも兄のリチャード一世が十字軍遠征のために税金を絞り取った後なので(その後囚われて、そっちの身代金も莫大だった)、タイミングが悪かったとも言えそう。そんなジョン王が主役になるとどんな話になるんだろう? と思ったのでありました。
…対照的に評判の良いリチャード1世は、獅子心王と呼ばれてる人ですけど、今まで読んだ限り、結構単純な戦争馬鹿に描かれてることも多いです… きっと脳みそが筋肉でできてるタイプだったんでしょう。でも面倒見の良い先輩タイプで、人々に愛されたのかも。(笑)
話が始まるのは、既にジョンが王になった後。リチャード1世の後を継ぐはずだった甥のアーサーを差し置いてジョンが王位についたため、フランスのフィリップ王から、アーサーの権利を認めろという使者が来るんです。(その時アーサーはフランスにいた) それをジョン王が追い返して、フランスに大軍を進めるところから話が始まります。
一読して、随分単純に分かりやすくまとめたなあという印象の作品でした。まあ、私は元々シェイクスピアのことを、それほどオリジナリティのあるヒトとは思ってないのですが(ほとんどの作品に元ネタがあるわけですし)、きっとどこかに光るものがあって名を残したんだろうと思うわけで… この作品では、私生児フィリップ(サー・リチャード)が面白かったです。話し方が野卑すぎて浮いてるんですけど(しかもこれで獅子心王と話しぶりがそっくりって)、この役を舞台で演じる役者さんは、他の役者さんを食ってしまえそうです。そういう意味で、ちょっと舞台を見てみたくなるような作品ですね。…シェイクスピアが書いたのはあくまでも戯曲なんだから、本を読んでるだけじゃダメなんですよね、きっと。舞台でこそ本領発揮するんでしょう。(だから舞台を観たことのない私には、その真価は分からないのかも)
結果的にはマグナ・カルタも登場しないし… いえ、登場しないというのは既に聞いて知ってたんですが、なんでシェイクスピアはこのことを書かなかったのかな? すぐに破棄されたようなものだから重要ではないと考えた? それとも単に忘れていた?(笑)
この作品で貴族たちがジョンに離反したのは、マグナ・カルタのせいではなくて、ジョンがアーサーを殺したという噂が流れたからでした。(白水uブックス)
+既読のシェイクスピア作品の感想+
「プークが丘の妖精パック」キプリング 「夏の夜の夢・あらし」シェイクスピア
「ジョン王」ウィリアム・シェイクスピア
「ジュリアス・シーザー」「アントニーとクレオパトラ」シェイクスピア
「ハムレット」シェイクスピア・「新ハムレット」太宰治
「マクベス」シェイクスピア
「トロイラスとクレシダ」ウィリアム・シェイクスピア
+既読の白水uブックス作品の感想+
このブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
新ブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
Posté par 四季 : lien permanent | 本(2007) /(白水uブックス) | commentaire (4) | trackback (2)
octobre 08, 2006 (dimanche)
「まっぷたつの子爵」「木のぼり男爵」イタロ・カルヴィーノ
[amazon] [amazon]
トルコ人との戦争で砲火を浴びて真っ二つになってしまったメダルド子爵。生き残った右半身は故郷に帰還するのですが、その右半身は完全な「悪」だったのです… という「まっぷたつの子爵」と、12歳の時に昼食に出たかたつむり料理を拒否して木に登り、それ以来樹上で暮らし続けたコジモの物語「木のぼり男爵」。
以前「不在の騎士」を読んだ時に奇妙な世界の片隅でのkazuouさんにお勧め頂いていた本。その3冊で歴史小説3部作とされているんですが、話としては全然関連がなくて、それぞれに独立しています。
いやあ、どちらも面白かった。「まっぷたつの子爵」は寓話だし、「木のぼり男爵」はもう少し現実的な話(?)ながらも色々とメッセージが含まれているんですが、それ以前に物語として面白かった。特に気に入ったのは「まっぷたつの子爵」。これは表紙を見て分かる通り児童書なんですけど、いや、すごいですね。真っ二つになってしまった子爵の身体は、完全な「善」と「悪」に分かれちゃう。普通に考えれば「善」の方が良いもののはずなのに、完璧な「善」は実は「悪」より遥かに始末が悪かった、というのがスバラシイ。まあ、結局のところ、完全な存在ではあり得ない人間にとっては、善悪のバランスが取れた人間の方が理解しやすいですしね… それに「悪」に対しては立ち向かって行こうという意欲が湧くかもしれないけど、完全な「善」を前にしたら、いたたまれなくなっちゃうものなのかもしれないな… 中でも、「善」のために気晴らしができなくなって、自分たちの病気を直視せざるを得なくなった癩病患者の姿がとても印象的でした。
「木のぼり男爵」も面白かったです。現代インドの作家・キラン・デサイの「グアヴァ園は大騒ぎ」では、主人公は木に登ったきりほとんど何もしようとせず、家族によって聖人として売り出されてしまうんですけど、こちらのコジモは実に行動的。木がある限り、枝から枝へとどこへでも行っちゃう。樹上にいても読書もできれば盗賊と友達となれるし、海賊と戦うこともできるし、恋愛すらできちゃうんですよね。ヴォルテールやナポレオンが登場したのにはびっくり。そしてアンドレイは、「戦争と平和」のアンドレイだったんですね。ただ、こちらは少し長かったかな。もう少し短くまとまっていても良かったような気がします。(晶文社・白水uブックス)
+既読のイタロ・カルヴィーノ作品の感想+
「宿命の交わる城」イタロ・カルヴィーノ
「不在の騎士」イタロ・カルヴィーノ
「レ・コスミコミケ」イタロ・カルヴィーノ
「なぜ古典を読むのか」イタロ・カルヴィーノ
「まっぷたつの子爵」「木のぼり男爵」イタロ・カルヴィーノ
「イタリア民話集」上下 カルヴィーノ
「魔法の庭」イタロ・カルヴィーノ
「見えない都市」イタロ・カルヴィーノ
「マルコヴァルドさんの四季」カルヴィーノ
「冬の夜ひとりの旅人が」イタロ・カルヴィーノ
「柔かい月」イタロ・カルヴィーノ
「カルヴィーノの文学講義」イタロ・カルヴィーノ
「パロマー」カルヴィーノ
「くもの巣の小道」イタロ・カルヴィーノ
「むずかしい愛」カルヴィーノ
+既読の白水uブックス作品の感想+
このブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
新ブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
Posté par 四季 : lien permanent | 本(2006) /(白水uブックス) | commentaire (4) | trackback (1)
juin 03, 2006 (samedi)
「気になる部分」岸本佐知子
[amazon]
翻訳家の岸本佐知子さんのエッセイ。第23回たらいまわし企画「笑う門には福来たる! “笑”の文学」で、空猫の図書室の空猫さんと(記事)、コウカイニッシ。のあさこさんが挙げてらした本です。(記事)
帯の「抱腹絶倒」の言葉に納得のエッセイ集。岸本さんの思考回路、面白すぎ! 小学校の算数のテストの時、「ある人が、くだもの屋さんで20円のリンゴを7こ買おうとしたら、10円たりませんでした。その人はいくら持っていたでしょうか」という問題を読めば、その“ある人”のことが気の毒になり始めて、どうかすると同情が淡い恋心に変わってしまい、思いを馳せているうちに、テスト終了になってしまっていたという岸本さん。ごく普通だったはずの話が、気づけばすっかりシュールになってます。流行のポジティブ・シンキングをやってみようと、寝る前に布団の中で美しいを思い浮かべるものの、最後には必ず目を覆うばかりの地獄絵図と成り果ててしまったりとか… なぜ一面の菜の花畑に河童が出てくるんですか! しかもその河童一匹のために一面が火の海になってしまうとは…!
という私が一番最初に笑ったのは、本文2ページ目に載ってた、茶碗蒸しのつくり方に関する穴埋め問題。「…このとき、醤油を入れすぎると( )が悪くなってしまいます」 私が笑った回答は、岸本さんご自身の回答ではなかったんですが。 (笑)
ただ、翻訳家さんのエッセイということで、もっと本や仕事にまつわるエピソードを読めるのを期待してたのに、そういった部分はあんまりなくて、それが少し残念でした。全部で4章に分かれてるんですけど、そういった話は最後の章だけなんですもん。もっと今の仕事にまつわる面白い話、読んだ本の話などを読みたかったなー。岸本さんの翻訳された本は読んだことがないんですが、なんだか不思議な雰囲気の作品のようで、そちらもちょっと気になります。(白水uブックス)
+既読の岸本佐知子作品の感想+
「気になる部分」岸本佐知子
「ねにもつタイプ」岸本佐知子
+既読の白水uブックス作品の感想+
このブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
新ブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
Posté par 四季 : lien permanent | 本(2006) /(白水uブックス) | commentaire (8) | trackback (5)
avril 21, 2005 (jeudi)
「インド夜想曲」アントニオ・タブッキ
[amazon]
これは前回のたらいまわし企画「旅の文学」で、肩までまったり。のne_sanさんが紹介されていた本。「暑苦しい真夏の夜に読むのには、一押しの一冊です」「夏に向けて、「積読熟成」なさるなら、この春がチャンス!」とのことだったんですが、熟成を待ちきれずに、読んでしまいました。(笑) このアントニオ・タブッキというのは、現代イタリア文学を代表する鬼才の1人なのだそう。…と書いてるワタシは、名前を聞いたこともなかったのですが…(^^;
内容は、失踪した友人を探してインドの各地を旅する男の物語。でも手がかりがあまりに少なくて、主人公は細い糸を辿るように色々な場所を訪れて、様々な人に話を聞くことになります。場末の娼婦に「彼は病気だった」と聞けば病院を訪ね、そこにも何も手がかりがないと知ると、医者がふと名前を出したホテルに泊まりに行き… と、確実に足取りを辿っているわけじゃないんですが、細い糸を手繰り寄せるように訪ねまわる主人公。でもそうやって訪ね歩いているうちに、なんだかまるで合わせ鏡の中に入り込んでしまったような感覚なんです。…そして最後にその鏡に映ったものは…? (鏡というのは私が連想しただけで、作中には登場しません) インドを辿る旅でありながら、自分自身の内面の旅でもあるんですね。とても幻想的。ごく短い作品なんですけど、とても不思議な感覚で、これはクセになりそうです。もうちょっと何回か読み返してみようっと。
上のAmazonのリンクは単行本版。表紙の画像が出てこなかったのですが、もっとお手頃な新書版はコチラ。私が読んだのもそっちです。(白水uブックス)
+既読の白水uブックス作品の感想+
このブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
新ブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
Posté par 四季 : lien permanent | 本(2005) /(白水uブックス) | commentaire (4) | trackback (2)
octobre 29, 2004 (vendredi)
「人喰い鬼のお愉しみ」D.ペナック
[amazon]
先日行った花園大学公開講座「ミステリーの魅力」で、近藤史恵さんが海外ミステリ入門編として薦められてた本。近藤史恵さん大好きだし、すっごくキャラ立ちしててフランスでもブレイク中のシリーズということで、とても読みたかった本。
でも… いえ、キャラ立ちは凄いのです、確かに。これでもかこれでもかと個性的な人物が登場。ストーリーはユーモアたっぷりで、テンポも良くて面白い。でもね、読んでても人間関係がなかなか分からないんですよー。その辺りの説明が極めてあっさりしているので、「えっ、これは誰? どういう関係?!」の繰り返し。独身で、たんまりいる弟妹と一緒に暮らしているという主人公の家庭環境を飲み込むだけで、凄く時間がかかってしまいました…。「人間関係が全然ワカラナイー。でもなんだか面白いー」状態。結局なんとか理解したのは、後半に入ってからでしょうか… いえ、一旦分かってしまえば、全然なんてことないんですけどね。でも、こんなに掴みにくくて、それでも面白かったっていう作品も珍しいです、ほんと。やっぱりフランスの作品… だからなのでしょうか…?(笑)
これで人間関係は掴めたから、シリーズ次作はずっと楽しく読めると思います。なんかね、後を引くんですよね、この感じ。うーん、やっぱり面白かったんだな。不思議だなあ)(白水社)
+シリーズ既刊の感想+
「人喰い鬼のお愉しみ」D.ペナック
「人喰い鬼のお愉しみ」「カービン銃の妖精」ダニエル・ペナック
「散文売りの少女」ダニエル・ペナック
「ムッシュ・マロセーヌ」ダニエル・ペナック
+既読のダニエル・ぺナック作品の感想+
「片目のオオカミ」ダニエル・ペナック
「カモ少年と謎のペンフレンド」ダニエル・ペナック
「奔放な読書」ダニエル・ぺナック
+既読の白水uブックス作品の感想+
このブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
新ブログの白水uブックス作品の感想はコチラ
Posté par 四季 : lien permanent | 本(2004) /(白水uブックス) | commentaire (4) | trackback (1)
